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突然ですが質問です。

 

皆様は以下の2つの図形を見て、どちらが「キーキー」で、どちらが「ブーバー」という名前だと思いますか?

 

 

 

 

 

(出典: Gomez et al., 2013)

 

 

 

恐らく大多数の方が、左のギザギザの図形が「キーキー」、そして右の丸みを帯びた図形を「ブーバー」だと感じだとのではないでしょうか?

 

 

実はこれは「Kiki/Bouba効果」と呼ばれる言語学の世界では非常に有名な実験なのです。

 

 

同じ質問を英語、タミル語、スペイン語、ドイツ語のネイティブスピーカーに実施しても、被験者の90%以上が「左がキーキー、右がブーバー」と回答することが判明しています。しかもこの現象は大人の話者のみならず、2歳以上の話者であれば同じ効果が観察できることが分かっています。(Ramachandran & Hubbard, 2001 as cited in Gomez et al., 2013). 

 

 

なぜ私たちはある物理的な「音」を聞いただけで、その音と特定の「図形」(即ち意味)を結びつけてしまうのでしょうか?

 

 

これには様々な仮説があります。「キーキー」と発音する際の「k」の音は軟口蓋破裂音と呼ばれ、口の形が緊張して尖った見た目になりますが、対照的に「ブーバー」と発生する際の「b」は両唇破裂音と呼ばれ、発話する口の形は比較的丸くなると思います。この口の形が、無意識の内に、「尖った口と尖った形」、「丸い口と丸い形」を結びつける原因になっているのではないかという説もあります。

 

 

「物理的な音・発話の信号と、その意味には非抽象的な関係性がある」という概念を「Sound Symbolism」と呼び、これが言語学者・心理学者の間では熱心な研究対象となっています。(Ohala, 1994)

 

 

実は私達が話す日本語にはこの「Sound Symbolism」が溢れており、特に所謂「オノマトペ」と呼ばれる擬音語・擬声語・擬態語には顕著にその効果が観察できます。

 

 

非常に興味深いのは、同じオノマトペでも「濁音が有るか無いか」に依存して、想起される意味やイメージが180度異なるということです。

 

 

例えば「ギラギラ」と言った際には激しく照りつける太陽光等をイメージしますが、「キラキラ」と言うと美しい星空等を連想し、前者は比較的「強力」かつ「ネガティブ」なイメージがあるのに対して、後者は「ポジティブ」なイメージがあると思います。

 

 

同様に「ドアをドンドン叩いた」と言った際には、「強力」かつ「ネガティブ」、「うるさい」といった印象がありますが、「ドアをトントンと叩いた」と言うと前者のようなイメージは無く、ニュートラルですよね。

 

 

「パンをボロボロとこぼした」と言った際と「パンをポロポロとこぼした」と言った際では「こぼれたパン屑の大きさが違う」と感じませんか?

 

 

同様に「彼はブリブリと怒っていた」と「彼はプリプリと怒っていた」では、何故だか前者の方が怒りの度合いが大きく感じますね。

 

 

このように日本語においては、「z, g, b, d」等濁音の付いたオノマトペは「ネガティブ、強い、大きい、激しい、重い、うるさい」等の印象を想起しやすいのに対して、反対に「s, k, p, t」等清音のオノマトペは「ポジティブ、弱い、小さい、軽い、静か」といった印象を想起しやすいとされています。(Tamori, 2002 as cited in Pantcheva, 2004)

 

 

濁音か清音かという違いだけで、ここまで想起するイメージと意味に違いが出るのは非常に面白いですよね。そしてこの感覚を私たちネイティブスピーカーが当たり前に共有している事実も大変驚きです。

 

 

まとめ:

いかがでしたでしょうか?

本稿では「特定の音声と、特定の意味が無意識の内に関連付けられている」という概念「Sound Symbolism」ついてご紹介しました。

この現象は世界中のあらゆる言語で確認されていますから、英語にこのような現象が無いか探してみるのも面白いかもしれませんよね。

普段当たり前に使用している言語ですが、よくよく考えてみると非常に緻密なシステムであることが分かります。本稿を通して、そんな言語の奥深さが少しでも共有できたなら嬉しいです。

 

 

参考文献:

Gomez, Emilio & Iborra, Oscar & De Córdoba Serrano, María José & Juárez-Ramos, V. & Artacho, M.A. & Rubio, José. (2013). The Kiki-Bouba Effect A Case of Personification and Ideaesthesia. Journal of Consciousness Studies. Volume 20, Numbers 1-2, 2013 , pp. 84-102(19). 

Inose, H. (2007). Translating Japanese onomatopoeia and mimetic words. Translation research projects, 1, 97-116.

Ohala, John. (1994). Sound Symbolism. University of California, Berkeley

Pantcheva, E. (2004). The Distribution and Meaning of Voiced Obstruents in Japanese Onomatopoeias[in Japanese]. Social science and humanities, Chiba University. (8), 39-50. オノマトペにおける濁音の分布と意味. 千葉大学社会文化科学研究, (8), 39-50.