以前「英語圏ってどこ?「WORLD ENGLISHES」の考え方」でもお話した通り、私たち英語学習者が他の非ネイティブスピーカーと接触する機会は増加の一途を辿っており、それはネイティブとの接触機会を遥かに上回っています。
日本人の英語学習者が頻繁に留学する英語圏の国々を例に取ってみても、この流れは明白です。
2017年のある調査によると、米国の教育機関における外国人留学生の数は100万人を超えており、オーストラリアでも79万人超え、イギリスでも49万人超えという驚きの数字が見て取れます。留学生の内訳は地域によってまちまちですが、圧倒的多数なのは中国人留学生で、他にもインド、韓国、サウジアラビア、ネパール、ブラジル、EU諸国出身留学生等、その多様性には目を見張るものがあります。
私たち日本語話者がそうであるように、当然これら非ネイティブスピーカーは大抵の場合、英語を話す際に自らの母国語の影響を受けた英語を話しますから、特有のアクセントを持っています。それ自体は人類の言語文化的多様性の観点からは素晴らしいことなのですが、ここで問題になるのが、「非ネイティブアクセントのある英語は、ネイティブアクセントの英語よりも聞き取りにくい」という事実です。
複数の研究で、非ネイティブアクセントのある英語は、英語ネイティブにとっても、他の非ネイティブにとっても意味理解を強く阻害する影響があることが分かっています。つまり、これはアメリカ英語話者がスペイン語訛りの英語を聞いた時や、日本人英語学習者が中国語訛りの英語を聞いた時に、聞き手にとって理解への負荷と難易度が上昇することを示しています。
これは、聞き手が既に知識として持っている言語学的知識と、聞き慣れない音声とのギャップを埋める処理をする際に、必要以上に脳の認知リソースが消費されるために、通常より処理に労力と時間が掛かってしまうことが原因だと言われています。
「非ネイティブと英語で接触する機会は増加しているのに、非ネイティブの英語を理解することは困難である」、これら背反する二つの事象に私たち学習者はどのように対応していけばよいのでしょうか?
最新の研究が示すのは、シャドーイングがこの対応策として効果的であるということです。
2020年に日本の大学生96人を対象に実施された実験では、「非ネイティブが話す英語をシャドーイングすることで、当該アクセントに対するリスニング理解度が向上するかどうか」が調査されました。
たった5日間の実験であるにも関わらず結果は歴然で、シャドーイングを実施する前とした後では、対象アクセントに対する聞き取りの理解度が飛躍的に向上していました。
つまり、アメリカンアクセントの英語をシャドーイングすると、アメリカンアクセントの英語がより理解できるようになり、中国語アクセントの英語をシャドーイングすると中国語アクセントの英語がより理解できるようになる、ということを示唆しています。
さらに興味深い結果としては、シンプルにシャドーイングだけを実施するよりも、スクリプトを見ながらシャドーイングをする方がより一層の相乗効果が期待できることです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
インターネットの普及した現代、今やネイティブのみならず非ネイティブの英語コンテンツにも容易にアクセスできる時代です。
意識的に様々な言語バックグランドを持つ英語スピーカーの英語に触れ、スクリプトを使用したシャドーイングトレーニングを繰り返すことでGlobal Citizenとしての素養と、それに伴う英語運用能力を高めていけると良いですね。
参考文献: Hamada, Y, Suzuki, S. Listening to Global Englishes: Script‐assisted shadowing. Int J Appl Linguist. 2020; 1– 17. https://doi.org/10.1111/ijal.12318