「that」が省略できる場合とできない場合の違いとは?
早速ですが、以下の例文を見てみましょう。
Do you think that a dog is much cuter than a cat?
Do you think (that) he has been to Japan before?
1つめの文中の「that」は省略できませんが、2つめの「that」は省略可能です。
今回は、このように「that」が省略できる場合とそうでない場合についてご紹介いたします。
補文標識としての「that」
英語において従属節を導入する「that」はcomplementizer(補文標識)とも呼ばれ、一部の例を除き、一般的には「意味を保持したまま省略が可能」であると考えられています。
しかしどのような文脈・状況下で’that’が省略される傾向にあり、反対にどのような条件下では保持される傾向にあるのかに関しては、残念ながら単純明快な回答は無いというのが事実です。
それ自体が大変物議を醸す研究課題となっています。
このトピックに関し言語学、特に統語論の世界でもこれまで大変数多くの研究が実施されているのですが、今日に至るまで言語学者の間でコンセンサスは形成されていないのが実情です。
複数の研究で、「’that’省略は形式ばらないカジュアルな会話でより高頻度で発生する」とも言われていますし
(McDavid 1964; Finegan & Biber 1995; 2001; Biber et al. 1999:12,680; Storms 1966:262-265)、方言等、「話者の地域差」によるものだという指摘もあります。
例えばKolbe (2008)によると、スコットランド及びウェールズ地方で取得されたデータでは’that’の保持率が高いと指摘されていますが、反対にFinegan and Biber (2001:261–263) で指摘されているように「’that’保持・省略に関して地域差は確認できない」と結論づける研究も存在します。
「客観的な事象を述べる際に’that’が保持される傾向が強く、逆により感情的、個人的、主観的な事象を述べる際には省略される頻度が高まる」と考える研究者もいます。(Bolinger, 1972 and Yaguchi, 2001)
また大変興味深い主張として、以下のような仮説も存在ます。(Szmrecsanyi, B., & Kolbe-Hanna, D., 2015 からの引用)
簡単に要約すると、「文構造が複雑になればなる程、認知プロセスのコストが高まるため、従属説の存在を明確にするために’that’が保持される頻度が高まる」というものです。
The cognitive complexity of an utterance has proved to be a strong influence on the retention of that. According to Rohdenburg’s “complexity principle” (1996; 1999), more explicit grammatical options are typically preferred in cognitively more complex environments. That is often retained to reduce parsing load by explicitly marking the following clause as complement (Hawkins 2001; Hawkins 2003; Jaeger 2006), whereas in cognitively less complex structures explicit marking is not necessary. Therefore, the omission of that is most frequent in “brief and uncomplicated” clauses (Quirk et al. 1985:1050).
まとめ
いかがでしたでしょうか。
言語は人間の認知能力を反映する鏡であることから、このように不明瞭で曖昧な要素が数多く存在します。それらも全て踏まえて言語学習の面白さ・醍醐味なのではないでしょうか。