あなたはPlurilingualism(複言語主義)という言葉を耳にしたことはありますか?
これは、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)と共にCouncil of Europe(欧州評議会)によって提唱される概念です。
欧州評議会の定義によると、一般的にMultilingualism(多言語主義)は一つ以上の言語のバラエティが使用される社会を指す一方、Plurilingualism(複言語主義)は社会を構成する一個人の視点に焦点が置かれ、「一個人が状況に応じて、多様な言語のバライエティを多様な運用能力を以ってして活用する能力である」と定義されています。
上智大学言語教育研究センター長・吉田研作特任教授が英語教育に関するインタビュー(参考文献欄参照)で説明する通り、私たち英語学習者は「日本語と英語のバイリンガル」と聞いた際に、一個人の中にあたかも「日本語を話す自分」と「英語を話す自分」の二人のネイティブスピーカーが独立して存在する状態を意識しがちです。
この認識がどこか「英語は完璧で、ネイティブのようにならなくてはならない」という非現実的な理想を作り出し、ひいては「ネイティブのようにならないと恥ずかしい、話したくない」というネガティブな心理負荷を生み出してしまっていることも往々にしてあるのではないでしょうか。
しかしプルリリンガリズムの概念の中では、「日本語を母語として話す私が、外国語である英語も必要に応じて話す」という一見当たり前のようで、私たちが見落としがちな視点が推進されています。プルリリンガリズムの真髄は「一個人が自らの中に複数存在する言語バライエティを状況や必要に応じて駆使しながらコミュニケーションを円滑に実行する」こと。従ってここでいう「言語バライエティ」には地方方言や、ジェスチャー等も当然含まられるのです。
例えば「博多弁を話す人が東京の企業に就職した際、顧客に東京標準語アクセントでプレゼンを実施するが、福岡の実家に帰省した際は友達と家族と博多弁で会話する」、これもプルリリンガリズムの一例と言えるでしょう。
また「台湾に旅行した時に、レストランの入店時は覚えたての標準中国語で挨拶するが、注文の時は初級英語と身振り手振りを組み合わせてコミュニケーションを図る」、これも立派なプルリリンガリズムです。
状況やニーズに合わせて自らの中に存在するありとあらゆるコミュニケーション手段(母語である日本語、故郷の方言、勉強中の英語、覚えたての中国語フレーズ、ボディランゲージ等)を最大限に組み合わせ・活用し、目の前のコミュニケーションを達成すること、そして反対に、他者の中にも同様に存在する複数のコミュニケーション手段を認識し、尊重することをプルリリンガリズムは私たちに教えてくれます。
まとめ
「英語のネイティブになること」から「自分の持てるあらゆる言語バライエティを駆使し、コミュニケーションを円滑に実行すること」に目標をシフトすることで少し気が楽になるのではないでしょうか?英語はどんなレベルからでも話せます。そんなプルリリンガリズムの精神で、肩の力を抜き楽しみながら英語学習を進めていけるといいですよね。
参考文献:
Council of Europe.(2007). From linguistic diversity to plurilingual education: Guide for the development of language education policies in Europe. Retrieved 2021, from https://www.coe.int/en/web/language-policy/from-linguistic-diversity-to-plurilingual-education-guide-for-the-development-of-language-education-policies-in-europe
日本人はどんな英語を身につけるべき? ~上智大学言語教育研究センター長・吉田研作先生インタビュー~|【公式】「ディズニー英語システム」(DWE)|子供・幼児英語教材|ワールド・ファミリー. Retrieved 2021, from https://world-family.co.jp/why/news/201808-02.html