私たちが普段学び、使用する英語という言語には、よく観察すると不可解な点がいくつもあります。
「Ask」という動詞があるのにも関わらず、「Inquire」や「Request」といった類似語が数多く存在していたり、アルファベットの「P」の発音であっても、「Paint」は「ペイント」(‘P’の音)であるのに、「Psychology」の発音は「サイコロジー」(’S’の音)、「Philosophy」は「フィロソフィー」(‘F’の音)など。英語学習者の私たちからすると、なんともややこしい現象が無数に存在します。
なぜ同じ言語の中でこのような複雑なルールが混在しているのでしょうか?英語成立の歴史を紐解くと、少しづつその理由が見えてきます。
ゲルマン人の大移動と古英語
今よりおおよそ1500年程前、現在の北ドイツ、デンマーク、オランダ周辺に暮らしていたゲルマン人の3部族アングル人、サクソン人、ジュート人が今でいうグレートブリテン島(イギリス+アイルランド)へ新たな土地を求めて渡来したことが全ての始まりでした。これらゲルマン族は、グレートブリテン島既存住民であったケルト語族を話す民を現在のアイルランド、ウェールズ、スコットランドへ駆逐しました。当時これらゲルマン人彼らが話した言語が所謂「古英語」のルーツであり、古英語は現在のドイツ語に類似した言語で、語尾の語形変化等も大量に存在しました。現在の英語のネイティブでも古英語はまず理解できないと言われている程、近代英語とはかけ離れたものでした。
北欧の民バイキングの襲来
これらゲルマン人が築き上げた王国は、8世紀頃の北欧民族バイキングの襲来により瓦解していきます。バイキング達の言語は古ノルド語という現在の北欧諸語のルーツで、この時多くの語彙が古ノルド語から英語へ借用され、現在までその形を残しています。身近な代名詞「They」等も実は古ノルド語からの借用です。
北フランス・ノルマン人によるグレートブリテン島征服と中英語
11世期にグレートブリテン島にとって最大の出来事である、ノルマン朝成立が起こりました。これにより支配階級となったノルマン人は特に行政面でアングロフレンチを多用し、ここで古英語に大量のフランス語語彙が流入していきました。これが古英語が中英語へと変貌を遂げる大きな引き金となったのです。当時支配階級にあったノルマン人は「Beef」や「Pork」といった語彙を使用しましたが、非支配階級だったアングロサクソン人は「Cow」や「Pig」を使用していたことが、今日の英語で「動物」と「動物の肉」が分かれている理由です。
「Great Vowel Shift(大母音推移)」から近代英語へ
15世期に英語にとって大事件が発生します。これが所謂「Great Vowel Shift(大母音推移)」と呼ばれる言語学的事変で、発生原因は諸説ありますが、英語におけるスペリングと発音のミスマッチの大きな原因の1つとなりました。例えばこれ以前は「Name」は「ナーメ」に近い発音だったのですが、この出来事により「ネイム」といった現在の発音へと変移していきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?このように英語の歴史をたどってみると、英語は政治的侵略・複数言語の影響を受け成立した言語だということがお分かりいただけたかと思います。普段何気なく使っているその単語が、一体何処から来たのかを調べてみるのも面白いのではないでしょうか。