「言語は脳が柔軟な子供のうちじゃないと習得できない」、「外国語は若ければ若いほど上達する」という話は誰でも一度は耳にしたことがあると思います。
何となく感覚的に「大人になってからの言語習得は若い時と比較して困難だ」と感じていらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、この説は一体どれ程信憑性のあるものなのでしょうか?
生まれたばかりの梟の雛鳥の右目にガーゼを当てて数週間置いてから外すと、ガーゼで覆われていなかった左目は問題なく視覚が発達するのに対して、ガーゼを当てていた右目は一生視覚が宿らないままになります。これは生まれて数週間のある「特定の期間」に梟の目の受容体が必要な量の光の刺激受けなかったことに起因します。
このような事象は生物学の中ではよく散見され、50年代より言語学者の間で人間の第1言語習得でも同様の事象が発生しているのではないか、という議論がなされてきました。これを「Critical Period Hypothesis(臨界期仮説)」と呼び、「ある特定の期間に言語習得を開始しないと、その後の習得が不可能になる」という学説です。
第2言語習得論においても、この仮説を巡って様々な議論がなされてきました。「9-14歳程度までに言語習得を開始しないと、ネイティブスピーカーと同様の言語運用能力を会得できない」とする学者もいる一方、20代後半から結婚をきっかけに全く現地語を話せない状態でエジプトへ移住したにも関わらず、数年で母語話者と区別できない程の水準でアラビア語の運用能力を身につけたアメリカ人女性等、仮説を根底から覆す事例も存在するため、臨界期の存在は現代でも証明されていません。
近年ではむしろ大人の方が子供より早くある程度のレベルまで第2言語を上達させられる、という研究結果も出ており、これは子供の学習者に比べて、大人の学習者の方が認知能力が発達しているため、例えば単語フラッシュカードを作成する等、「戦略的」に言語学習を継続できるためだと言われています。
つまり、大人だからといって言語習得が不可能というわけではなく、逆に大人の学習者であることのメリットも存在するため、言語学習は何歳から始めてもよいということになります。従って「もう若くないから…」と消極的になる必要は全く無いため、前向きに今後の英語学習に取り組んでいきたいですね。
参考文献: Lourdes Ortega(2008), Understanding Second Language Acquisition, Routledge
まとめ
いかがでしたでしょうか?英語学習を始めるのに、決して「遅すぎる」とネガティブになる必要はなさそうです。子供より多くの知識を持つ大人であるからこそ、背景知識や戦略的、論理的な思考ができそれが語学学習に役立つこともあるようですので、是非前向きに取り組んでいきたいですね。