aerial view of high rise buildings

皆様は普段英語学習をされている中で頻繁に「構文」(英語では’construction’)という言葉に出会うと思います。学校英文法で習う代表的なもので言えば、「It…for~to構文」のようなものが挙げられます。

It is fun for me to learn English(私にとって英語を勉強することは楽しい)

上記の例の通り、It…for~to構文を使用すると、「It is X for Y to do Z」即ち「YにとってZすることがXである」という意味になります。

つまり「It is X for Y to do Z」のXYZの中に、其々どのような単語を入れても、最終的に完成した分は「YにとってZすることがXである」という意味を形成する訳です。

この「式」、「骨組み」こそが構文なのですね。

私たちは普段何気なく、「英文Xの意味 = 単語Aの意味 + 単語Bの意味 + 単語Cの意味 + 単語Dの意味」のような図式を描きがちですが、果たしてこれは真実でしょうか?

例えば、「John kicked the bucket.」という英文は、「ジョンはバケツを蹴った」という意味では無く、「ジョンは死んだ」という慣用句的な意味になります。

これは「John + kick(ed) + the + bucket」の個々の意味の足し算の総和では、到底辿り着けない境地ですよね。

このことから「もしかして言語の意味は、個々の単語が持つ意味を足し算した合計ではなく、骨組みとなるその式(=構文)そのものに意味が付与されており、言語はそんな構文の集合体なのではないか?」と考えた言語学者たちがいました。

この概念は、Princeton大学言語学教授・Adele Goldberg博士らを中心とする学者達によって1990年代から高度に体系化され、「Construction Grammar(構文文法)」という言語学理論へ発展しました。(Goldberg, 1995)

この構文文法理論ににおいて、熱心な研究対象となっている面白い英語構文をいくつか見ていきましょう。

What’s X doing Y Construction(What’s X Doing Y’ 構文)

よく皮肉やジョーク等で使用される構文です。

Diner: Waiter, what’s this fly doing in my soup?(客: この蝿は私のスープの中で何をしているのかしら?)

Waiter: Madam, I believe that’s the backstroke. (ウェイター: 背泳ぎかと思われます、奥様。)

上記の英文において、客は「自分のスープの中で蝿がどのような動作・行動に従事しているのか」に本当に興味がある訳ではなく、食事に蝿が混入していることへのクレームを言おうとしていることは明らかですね。しかしウェイターはこの構文の意味を解さず、字義通りに解釈をした結果「蝿は背泳ぎをしている」と頓珍漢な回答をしてしまっているところが、このジョークの肝となっています。

Incredulity Response Construction(懐疑返答構文)

特定の条件下において、英文法の基本原則を無視する面白い構文です。

What?! Me write a novel?!(何だって?私が小説を書くだって?)

Him be a doctor?!(彼が医者だって?)

「対話者の発言が信じられないことを表現する」という文脈でのみ使用できる構文と言えます。
適切な文脈においてこの構文が発動した際は、主格を取らなければならないはずの主語が、目的格を取り、Be動詞は原型の「be」に戻ってしまいます。奇妙ですよね。

Way Construction(Way構文)

「動詞 + 所有格 + Way + 何らかの経路」の形をとり、この構文が使用される際は、往々にして「動詞の方法を用いて何らかの困難性から脱出する」ことを表現すると言われています。

Frank dug his way out of the prison.(フランクは地面を掘り進み刑務所から脱出した)

Mary elbowed her way through the crowd. (メアリーは肘で群衆をかき分けながら進んだ)

John miraculously talked his way out of a death sentence. (ジョンは奇跡的に口八丁で死刑を免れた)

上記の例文の通り、動詞の方法を用いて、困難な状況下を切り抜けるといった意味が含意されることが多いです。

Let alone Construction(Let alone構文)

前述の事象Aより、更に困難なBを比較対象として述べることにより、「Aもやらないのに、ましてやBなどやろうはずがない」という意味を形成する構文です。

He doesn’t get up for lunch, let alone breakfast. (彼は昼食にすら起きてこない、ましてや朝食になど起きてくるはずがない)

He wouldn’t give a nickel to his mother, let alone ten dollars to a complete stranger.

 (彼は自分の母親にさえ5セントも渡さないのに、ましてや赤の他人に10ドルなど渡そうはずもない)

Left-Subordinating-and-Construction(左方下位and構文)

「前述の事象Aが発生したら、Bが発生する」という構文で、脅し文句としてよく使用されます。

One more can of beer and I’m leaving. (あなたがあと一本缶ビールを飲んだら、私は出ていきます)

Ask me another stupid question like that, and I’ll bury you alive! (次にそんな馬鹿な質問したら生き埋めにするぞ!)

この構文の面白さは、単純に「and」という接続詞でA節とB節を繋いでいるだけなのに、いつの間にか左側のA節が「if節」の役割を果たし、右側のB節がその結果を表しているところです。文構造上は、仮定法等どこにも見当たらないのに、結果として仮定が含意されることから、言語学者の間で現在でも盛んに議論されている構文の一つです。

まとめ

如何でしたでしょうか?

「文の意味は、その文を構成する単語の意味の総和ではない」ということがお分かりいただけたのではないでしょうか?

上記ご紹介した英語構文のどの意味を見てみても、個々の単語の意味というよりかは、文を形成する「式」そのものが独立した意味を所有していますよね。

現在でも世界中の言語学者が多種多様な議論を展開し続けていますが、どうやら言語はシンプルな「単語の集合体」ではないことは確かなようです。むしろ言語は「ある一定の骨組み(=構文)」の集合体であり、それら構文そのものにある程度の意味が付与されている、と考える方が自然かもしれません。

今後単語学習に取り組まれる際は、単語個別の学習だけで無く、是非例文も使って「当該単語が実際にどの様な骨組み(=構文)の中で使用される傾向にあるのか」も学習すると、さらに効果的に英語学習が進むかも知れませんね。

参考文献:

Goldberg, A. E. (1995). Constructions: A construction grammar approach to argument structure. University of Chicago Press.

Kay, P., & Fillmore, C. (1999). Grammatical constructions and linguistic generalizations: The What’s X doing Y? construction. Language, 75, 1-33.

年岡智見. (2014). 英語構文体系の認知言語学的研究–二重目的語構文と関連現象–.