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man and woman wearing sunglasses near neon signage

皆様は以下の英文に回答できますか?

Next Wednesday’s meeting has been moved forward two days. What day is the meeting now that it has been rescheduled?

「水曜のミーティングが2日ずらされました。ミーティングは何曜日になったでしょうか?」

というような意味の質問です。

一見シンプルな質問ですが、実はこの質問に対する回答は英語のネイティブスピーカーの中で真っ二つに分かれると言われています。

即ち「Friday(金曜日)」と回答する人と「Monday(月曜日)」と回答する人が半々程度になるのです。

この2つの回答実ははどちらも正解で、「move forward」という句動詞の意味が曖昧であるため、予定を2日「早める」のか「遅らせる」のかどちらとも解釈できてしまうことが原因です。

この英文の抽象性を利用して、現カリフォルニア州立大学サンディエゴ校の認知科学者であるLera Boroditsky教授が、複数の大変興味深い実験結果を報告しています。

彼女がスタンフォード大学時代に実施したある実験では、大学のキャンパス内のカフェテリアで昼食の行列に並ぶ学生70人に、前述の曖昧な質問を投げかけました。

その結果、昼食に近ければ近いほど、つまり行列の先頭にいる人達ほど「金曜日」と回答する確率が高くなり、反対に昼食から遠い、列の後ろにいる人達ほど、「月曜日」と回答する確率が高かったというのです。

これは一体どういうことなのでしょうか?

Boroditsky教授は、英語のネイティブスピーカーは目に見えない「時間の流れ」を「物理的な空間」として概念的に処理していると考えており、「自分自身が動いて時間の流れの中を進んでいる意識」と「自分自身は停止していて時間が自分に向かってきている意識」の2つの概念的解釈を持つことができると仮説立てています。

これは日本語でも同じことが言えて、「もうすぐ夏休みに突入する」と「夏休みがすぐそこまで近づいている」のように、同じ事象でも2つの異なる視点で表現することができます。(‘自分が動く’ vs ‘時間が向かってくる’)

前者は「時間の流れの中を自分自身が動く視点」で後者は「時間が自分へ向かってくる視点」が言語に直接反映されていると言えます。

即ち、このカフェテリアの実験では「ランチの行列の中を自分で歩いて前へ進む」という身体的経験を得た人は、「自分自身が動いて時間の流れの中を進んでいる視点」がより強く働き、「水曜日のミーティングが2日’move forward’された」つまり「金曜日に後ろ倒しされた」と回答しました。

一方、ランチの行列の後ろ側に並んでいた人達は、まだ待ち始めたばかりなので「ランチの行列の中を自分で歩いて前へ進む」という体験を得ていませんから、身体的にはほぼ停止状態です。よって「自分自身は停止していて時間が自分に向かってきている視点」がより強く活性化され、「水曜日のミーティングが2日’move forward’された」即ち「水曜日のミーティングが2日前倒しされ、月曜になった」と解釈した訳です。

Boroditsky教授は同様の実験を空港や電車内でも実施しており、「空港に着陸したばかりの乗客」や「下車する寸前の電車内の乗客」といった人達の方がより「金曜日」と回答する可能性が高くなったことを報告しています。

つまり「飛行機や電車に乗って長距離を移動した」という物理的・身体的経験が「自分自身が動いて時間の流れの中を進んでいる意識」をより強固に浮き上がらせたことによって、人々に「水曜日のミーティングが2日’move forward’された」つまり「金曜日に後ろ倒し」されたと解釈させた訳です。

まとめ

如何でしたでしょうか?

同じ英語のネイティブスピーカーでも、その瞬間自分がどのように時空間を認知しているかが、生成される言語に直接影響を与えていることがお分かりいただけたのではないでしょうか?

言語というのはそれ自体が「独立した固定の能力」ではなく、私達人間の認知能力、知覚能力、心理状態と強く紐付き、互いに影響し合う関係にあるのかも知れませんね。

参考文献:

Boroditsky, L., & Ramscar, M. (2002). The Roles of Body and Mind in Abstract Thought. Psychological Science13(2), 185–189. https://doi.org/10.1111/1467-9280.00434